-Protocol-
Microscopic
FRET (Förster Resonance Energy Transfer)
の測定法
1.基本的測定方法
FRETが発生した時のエネルギー移動効率 (E)、Förster距離R0および、donorと
acceptor間の距離rの間には
E=R06/(R06+r6)
の関係があり、single donor and acceptor modelの液状検体では、EおよびR06を測定す
ることによって、donorとacceptorの距離rをオングストローム単位で計算することが可能で
ある。
しかし、顕微鏡下では、検体の吸光度、屈折率、蛍光強度の測定上、様々な制約がある
ために、donorとacceptorの距離rを直接計算することは不可能である。よって、顕微鏡下
のFRETの測定には、donorとacceptorの距離を測定するかわりに、エネルギー移動率ある
いはそれに準ずる値の測定(FRET画像)が行われる。
一般的に、エネルギー移動効率 (E)は
E = 1-τda/τd
あるいは = 1-Dda/Dd
で定義される。ここで、Dd、τdはdonorのみの(FRETが起こっていない)ときのそれぞれ
、蛍光強度、蛍光寿命で、Dda、τdaはdonorとacceptorが存在する(FRETが起こってい
る)ときのそれぞれ、蛍光強度、蛍光寿命である。
顕微鏡下のFRETの測定では、Dd、Dda、τd、τdaあるいはそれに準じる値を測定する
ことによって、FRET画像を得る。以下に主なFRET画像測定法を示す。
方法1)蛍光強度の測定に基づく方法
a)donor蛍光強度の変化による方法
FRETが発生していないときのdonor蛍光強度画像をDd、FRETが発生したときの
donor蛍光強度画像をDdaとすると、エネルギー移動効率を示す画像(E)は、
E = 1-Dda/Dd
の式によって計算できる。DdとDdaを求める方法には、まずdonorのみを染色し、Dd
を測定した後、acceptorで二重染色し、FRETによって減弱したDdaを測る方法と、
donorとacceptorの両方を染色した状態で、Ddaを測定し、次にacceptorに強い光を
あててacceptorの光吸収能力を失わせる(フォトクロミズム反応)ことにより、FRETを
伴わないdonorのDdを測定する方法がある。
b)donorとacceptorの蛍光強度比を測定する方法
donorとacceptorの両方を染色した状態で、2種類の蛍光フィルターセットを用い
て、FRETにより減弱したdonorの蛍光強度画像(Dda)とFRETによって増強した
acceptorの蛍光強度画像(Ada)を測定し、下記の式により、エネルギー移動率その
ものではないが、それに準ずる値を示す画像(E’) を求める方法である。
E’ = Ada / Dda
方法2)donorのフォトブリーチング時間を測定する方法
acceptorの存在しない状態と存在する状態で、強い光をあてることによって、donorに
フォトブリーチングを起し、それぞれのフォトブリーチング時間(tdおよびtda)を元に、
下記の式より、エネルギー移動率を計算する。
E = 1-td/tda
方法3)蛍光寿命の測定に基づく方法
近年、顕微鏡下でも0.2 nsの誤差で蛍光寿命を測定する手法(fluorescence lifetime
imaging microscopy)が開発されて、様々な研究に応用されている。蛍光寿命による
FRETのエネルギー移動効率の測定は、原則的には、下記の式を用いて行うが、蛍光
寿命は蛍光分子の濃度に左右されないので、単一蛍光寿命を示すdonorを選べば、
acceptor存在下のdonorの蛍光寿命画像のみでFRETのエネルギー移動効率を求める
ことができる。
E=1-τda/τd
2.Microscopic FRET測定のピットホール
1)偽FRET
FRETの実験において、donor蛍光強度の減弱はFRET発生を示す1つの指標ではある
が、donorはFRET以外の様々な原因で蛍光強度の減少(偽FRET)を起す。例えば、
donorのフォトブリーチング、高濃度のacceptorによる内部遮蔽効果、donor同士あるい
はacceptor同士の同種間 FRETなどは、求めたいdonor-acceptor間のFRETが起こって
いないにもかかわらず、donorの蛍光強度が減少し、あたかもFRETが起こったかのような
誤判定の原因となる。実際にFRETが起こっているか否かの確認は、液状状態の検体で
の測定、acceptor蛍光強度やdonor蛍光寿命の測定など、複数の方法で検討することが
求められる。
2)cross excitationやcross talkingによる測定誤差
donorの励起する光が、直接、acceptorをも励起するcross excitationやdonorの蛍光強
度がacceptorの蛍光強度に混入してしまうcross talkの存在は、FRET測定の誤差の原
因となる。誤差を減らすには、適切なdonorとacceptorの選択や鋭敏な波長依存性を示
す蛍光フィルターの使用が重要なポイントとなる。しかし、実際には、cross excitationや
cross talkを完全に無くすことは困難なことが多いので、補正が必要となる。
3)donorとacceptorの濃度比
細胞組織内でFRETを測定する場合、特にmultiple acceptor modelでは、各部位にお
けるdonorとacceptorの濃度や比が問題になることがある。例えば、donorとacceptorの距
離が均一でも、donorの濃度が高い部位では、FRETを伴うdonor分子の濃度が高いた
めに画像上は強いFRETを示す部位として示される。また、multiple acceptor modelでは
、acceptorを持たないdonorやdonorを持たないacceptorの存在が問題となり、FRETの
測定結果の過小評価をもたらす。この様な場合、donorとacceptorの濃度でFRET画像を
補正することが必要である。
4)ノイズ
FRET 画像は、複数の画像の比として計算されるので、分母になる画像の蛍光強度が
弱い場合、FRET画像は大きな誤値を示す。ノイズが少なく定量性のある画像を元に
FRET画像を求めることが重要である。
3.Microscopic FRET測定の補正
1)cross excitationやcross talkingによる測定誤差の補正
3種類のフィルターセット、すなわち、donorを励起してdonorの蛍光強度を測定するフ
ィルターセット(donor filter set)、donorを励起しFRETを介してのacceptorの蛍光強度
を測定するフィルターセット(FRET filter set)、acceptorを直接、励起してacceptorの蛍
光強度を測定するフィルターセット(acceptor filter
set)を用いた測定が必要である。こ
の3種類のフィルターセットを使って、donorおよびacceptorの両方が存在するサンプ
ル、donorのみのサンプル、acceptorのみのサンプルを測定し、9つの画像を得る。この
9つの画像から、FRET量は、以下の式で補正される。
corrected FRET= Fda-Dda(Fd/Dd)-Ada(Fa/Aa)----- (1)
ここで、Fda、Dda、Adaはそれぞれ、donorおよびacceptorの両方が存在するサンプル
をFRET filter set、donor filter set、acceptor filter setで測定したもので、Fd、Dd、
Adはそれぞれ、donorのみのサンプルをFRET filter set、donor filter set、acceptor filter setで測定したもので、Fa、Da、Aaは、それぞれacceptorのみのサンプルを
FRET filter set、donor filter set、acceptor filter setで測定したものである。
2)donorおよびacceptorの比
single donor and acceptor modelでは、donorとacceptorの比が1対1であるために、
donorやacceptorの比や濃度は問題にならない。しかし、multiple acceptor modelでは
、acceptorを持たないdonorやdonorを持たないacceptorの存在が問題となる。
acceptorを持たないdonorの蛍光強度は、FRETの測定結果を過小評価する。また、
donorとacceptorの両方の濃度がともに極端に高い部位では、donorとacceptorの距離
が離れていて弱いFRETしか起こらなくても、FRETを伴うdonor分子の濃度が高いため
に画像上は強いFRETを示す部位として示される。そこで、donorとacceptorの距離をよ
り正確に測定するには、式(1)から得られたcorrected
FRETをさらにdonorとacceptor
の濃度で補正したnormalized FRETを求める必要がある。
normalized FRET = corrected FRET / (G ・Dda・Ada) ----- (2)
ここで、Gは定数であり、corrected
FRETは相対値であるので、G=1を用いる。
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